劇場を出ても、物語はつづく 〜遅効性神経毒としての『りさ子のガチ恋♡俳優沼』〜

2017年8月某日。

そのド直球すぎるタイトルで、発表時点から各所で話題になっていた『りさ子のガチ恋♡俳優沼』を、観劇してきました。

 

公式のあらすじは、以下の通り。

26歳、彼氏なし。OLりさ子の趣味は舞台観劇。
大好きなイケメン俳優しょーた君を追いかける日々。
彼が出演中の2.5次元舞台『政権☆伝説』に大ハマリ中。

最前席で全通。グッズもコンプ。そして高額プレゼント。
「がんばってる姿を観られるだけで幸せ」そう思いつつも。
彼のちょっとした「特別扱い」に心ときめいていた。

ある日。ネットでしょーた君に彼女疑惑が持ち上がる。
彼との匂わせを繰り返す女が気になり暴走するりさ子。
エスカレートする迷惑行為。その行きつく果ては……。

俳優とファン――「この関係で、私の気持ちは届くのかな?」
演劇業界の闇に切り込む、見て見ぬふりをしたかった愛憎劇。

りさ子のガチ恋♡俳優沼 オフィシャルサイト

 

 

この舞台に私が興味を持った理由は、3つあります。

 

ひとつめは、私の性根がゲスであるため露悪的なタイトルに心惹かれたこと。

ふたつめは、「アイドルの追っかけファン三人が匂わせ彼女の出現で暴走する」という、本作に似た題材の舞台『皆、シンデレラがやりたい。』を観劇していたため、両作品の表現を比較してみたかったこと。

そしてみっつめは、2017年に入ってから私自身が、「2.5次元舞台で好きなキャラを演じた俳優さんにどハマりする」という体験をしていること。

 

 

とはいえ、私は「ガチ恋」というわけではありません。

歌声や演技、ビジュアル、キャラクターと真摯に向き合って掘り下げている姿勢、そして再現するにとどまらずそのキャラの新たな魅力・解釈の切り口を与えるような表現力……といった面に惹かれているだけです。

ただ、もっと沢山の舞台で、推しの芝居を観ることが出来たらうれしいなあと願うだけのオタクです。

 

………などと普段から「自己規定」をしまくっている人間なので、この作品に込められた遅効性の神経毒にやられたのだとおもう。

 

観劇中に味わう「毒」や「刺激」という意味では、先述した『皆、シンデレラがやりたい。』の方がわかりやすく強くて。

観終わった直後から、

「清々しいほどバカしかいねえ!」

「〇〇は一見かわいそうに見えるけど、やってることドルオタとして一番最悪!全員クズ!!!」

とノンアルコールでもハイテンションに語るのが止まらないほど、アッパーな(悪意と愛に満ちた)劇薬という印象でした。

 

で、『りさ子』は、観終わった直後は、(私が2.5次元若手俳優さんにハマって日が浅かったこともあり)正直、そこまで、毒々しいわけでも、過激なわけでもないな、という感覚を持ちました。

脚本・演出の松澤くれはさんご自身が、某俳優さんのガチ恋勢(!)という背景もあるからか、「ファン側」への愛に溢れた、真摯で皮肉でやさしいお芝居だなー!とうれしい驚きを感じるほどでした。

いやほんと、ゲス根性バリバリで観に行って申し訳なかったな、と思うレベルで、やさしい

 

特に序盤とラスト、客席を巧みに使った演出が最高だったーーー!

 

開幕、まず舞台上では、劇中劇である架空の2.5次元作品『政権☆伝説』がはじまる。

と同時に、下手の客席最前列にも照明があたり、そこではりさ子とオタ友2人が観劇している。

「うわ、素で気づかなかった…」と驚いていると、劇中劇の公演は終了。2.5舞台によくあるお見送りハイタッチが始まり、オタ3人それぞれの反応や俳優の対応の「あるある」っぷりに笑う。

この時のりさ子が、結婚式二次会くらい気合いの入った服とヘアメイクで、他2人は各々テイスト違えどちょっとダサめのカジュアルという「女オタク、3人集まるとファッションがバラバラ」あるあるを押さえているのも最高。

もちろん、一見仲が良さそうだけど1人だけ地方在住とか、金銭的な余裕の差とか、トイレに立って居なくなった1人の悪口を言うとか、女子の仲良しグループあるある的なネタもバッチリだよ!

 

そしてオタク達のTwitter表のアカウントではポジティブな発言をしつつ、裏アカウントで盛大にdisったり愚痴ったり)で交わされる内容・その演出など、細部のリアリティや表現も素晴らしかった。

 

職場でも地味めのOL、ファンの仲間内でも大人しそうに見えるりさ子。

だが実際の彼女は、推し俳優の彼女に嫌がらせをするなど、どんどん過激な行動に走るようになる。

 

物語の中では、俳優側が描かれる場面も多い。

キャリアや所属事務所によるパワーバランス、プレゼントボックスのスタバカードに喜び手作り品にドン引く、ヒロイン役の女優(もちろん共演俳優と付き合ってるぞ!)が俳優にプレゼントされたLUSHを欲しがる、過去の出演女優(もちろん共演俳優とry)が打ち上げに顔を出し写真にもうつりネットが荒れる、そして前述の俳優と付き合ってる女優がイケメン脚本家とも寝てる…などなど「ありそう~」と「地獄かよ!?」なネタが盛り沢山。

 

そんな『政権☆伝説』キャスト陣に、過激なファンに追い詰められ一度は引退した先輩俳優が復帰してくる。

先輩の思わぬ復帰に、当初はギクシャクする俳優陣。遠慮の無い若手俳優が先輩俳優に、引退の顛末について訊き、彼が語り始めた当時の真実ーーーーー。

 

そしてりさ子は、最終的に彼女&推しと直接対決をすることに。

 

「私の気持ちを受け容れてほしい」

「あなたのためにこんなに時間とお金を使ったのだから、見返りがあってもいいはず」

 

というりさ子の主張と、

 

「俺たちだって普通の人間なんだ」

 

という若手俳優の主張。

 

脚本家さんがガチ恋勢だからこそ、どちらも真に迫っていて、だからこそ並行線にしかならなくて。

ラスト、実際の劇場の扉から外に出ていくりさ子の後ろ姿を見守った後の、あの余韻、たまりませんでした。

 

 

とはいえ当時、まだ俳優沼に片足つま先を浸したレベルの私には、どこか「他人事」のような第三者目線で。

観劇後は「地獄は地獄だけど、劇薬というほど過激ではなかったな〜」「結局ファン側にはわりとやさしい目線のお話だよな」とか思っていました。

 

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帰りの電車の中で感想ツイートを投稿していると、すぐに「いいね」通知が来て、誰だろうと思ったら役者さんからのもの。 

 

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 「こんなすぐにエゴサするのか!?」「今日この後ソワレもあるんじゃないの…?」と戸惑いつつ、作中にも「エゴサ」は重要な局面で出てくるため、りさ子世界の中に取り込まれたような感覚でワクワクする。

 

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しかもこの階戸さんが演じられた匂わせ彼女・るるちゃんのエゴサが! 作中で! めちゃくちゃ重要な役割を果たしているので! 余計に興奮度が高いんですよ!!!

という勢いのままツイートしたところ、

 

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るるちゃんからお礼リプ貰える!うれしい!!!

(そして脚本・演出家様から随時いいねを頂いている)

 

愉快な気持ちで感想ツイートしつつ、いいねをくださった役者さんのホームから過去ツイートを漁るという、いつも通りのTwitter廃人行動をていた。

すると、パンフレットに「FGO沼にハマってる」という記述があった雨宮慎太郎さんの過去ツイートに、こんな内容があった。

 

 

劇中劇『政権☆伝説』を眺めながら「原作が乙女ゲームなのか…元のCV(声優さん)誰だろう…」などと考えていた私は、延髄反射的にリツイートして反応。

 

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 確かに作中で雨宮さん演じる瑛太郎が演じる米内光政(複雑)は、アクが強いエキセントリックなキャラクターで、吉野裕行さんの特徴的な声と台詞回しがハマりそうだな!という納得感があった。

すると、

 

 

引用RTを頂いた。(私が当該ツイート削除したのでわかりにくいのですが…)

まさかあのような適当なコメントに喜んでもらえるとは思えず、面白かったのでリプライした。

 

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 (注:「水着カルデア」は、スマホゲーム『Fate/Grand Order(通称:FGO)』で水着のキャラクターばかりがガチャで出てくるという雨宮さんの過去ツイートを参照して言及したもの)

その後、更にリプをいただいていた。(見ず知らずの輩に丁寧な対応をいただき、その節は本当にありがとうございました……)

 

 

さて、この「ファンからのリプライに返信をする」という行為についても、劇中で描かれている。

(この時のファンからのリプライ内容の「あるある」感と、俳優側の無難な返信との温度差も最高に好きな場面のひとつ)

 

私はとくに雨宮さんのファンというわけではなく、ただ反応をいただけたのが嬉しかったので、特に返信など期待せずリプライを送ったのに

 

………………………いや、本当に? 本当に期待してなかったのか?

 

ふ、とそんな考えがよぎる。あらためて、自分の送ったリプライを読み返す。

 

相手が言及した内容(米内光政のCV)について+相手の過去ツイートを読んで共通の趣味・興味対象があればその話題(FGO)にも触れる

 といった内容の返信を送ることは、私が普段から初めて会話する相手にやっている、相手が誰とか問わない習慣みたいなもので、

…………あー、いや、確かに「これ以上会話を続ける気がない」のであれば、もっと違う内容を返信するんじゃないか?

というか、この状況になって振り返って見てみると私の言動は、

『「私は貴方が好きなゲームのことも知ってるんですよ」とさりげなく(いや全然さりげなくはねえ)アピールしたい女』

にしか見えないじゃないか……!!!!! 

 

自分の振る舞いに、自分でゾッとした。

まんまと作品世界に取り込まれてしまったような、もやもやとした居心地の悪さと、脳の端っこが痺れるような感覚が、帰り道の私をずっと襲っていた。

半年以上経った今も、思い返すと背筋がソワッとする。

 

たぶん、おそらく、「私は〇〇なオタクだから」「私はガチ恋ではないから」なんて、分類にもラベリングにも、自己規定にも、意味はない。

あまりにも一方的な愛情を、同じ人間であるはずの対象へぶつけている「ファン」としての私は、それだけで「ヤバさ」を内包している。

ガチ恋でも、そうじゃなくても、ある沼の中にいる自分は、誰かとは異なる意味や濃度で「ヤバい」ファンで、いつどこで何を踏み外すか、なんて、きっと誰にも、私自身にも、わからないのだ。

 

あれから、

2.5舞台へ行くとき、俳優さんへ手紙を書くとき、それをプレゼントボックスへ入れるとき、推しの主演舞台にスタンド花を贈ると決めたとき、会場でその花を観たとき、他の役者さんへの花と比較したとき、他のファンの活動を目にしたとき、プレゼントボックスを覗いたとき、初めての「接触」現場へ行ったとき。

あらゆる場面で「りさ子」が、あの舞台を観たときの、観たあとの、生々しい感覚がフラッシュバックする。

 

それは私を戒める楔であり、己を映す鏡であり、「ファン」という生き物へのたくさんの愛しさとすこしの同族嫌悪でもあり。

 

『りさ子のガチ恋♡俳優沼』は、たぶんこの先も、私が「ファン」という生き物であり続ける限り、ずっと忘れられない舞台なのだろう。

 

りさ子のガチ恋? 俳優沼 (集英社文庫)

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興味を持たれた方、「ファン」という業を背負っている方には是非、触れていただきたいコンテンツです。

(作品の持つ「毒」に侵された際の責任は負いかねますが……)